ステントレス僧帽弁臨床研究会発足のご挨拶

さまざまな問題を抱えながらも長年続けられてきた僧帽弁置換術を、もっと生理的なものにするために、開発者(加瀬川 均 榊原記念病院特命顧問)は心膜シートと僧帽弁輪形成用リングを組み合わせて簡単に作成できる「正常の僧帽弁に近いデザインNormo」を考案し、早稲田大学先端生命医科学センターにおいて、長年にわたってその機能評価を繰り返し、現在臨床使用されている機械弁、生体弁と同等以上の良好な機能を有することを報告しました。さらに大動物への植え込みにも成功しました。

この弁は、臨床応用される場合、僧帽弁形成術において弁組織の代替材料として広く用いられている自己心嚢膜を手術中に採取し、デザインテンプレートに合わせてカットしそれを僧帽弁輪形成用リングに縫着して作成されます。この弁の作成手技は容易であり、そのデザイン上の特長から、僧帽弁閉鎖不全が発生しにくく、植え込みが容易であり、成人の僧帽弁形成困難例はもちろん、リングを切断してバンド状にすることで成長を考慮に入れるべき新生児、小児にも対応できます。

2010年8月、5つの研究施設 (大阪大学、神戸市立中央市民病院、京都府立医科大学、東京慈恵医大、榊原記念病院)によって「心膜を用いた新しい僧帽弁手術についての将来展開を検討する会」が発足し、適応検討委員会を設立、多施設臨床研究が開始されました(後に慶應義塾大学が参加し、6施設となりました)。

各施設の院内倫理委員会の承認を経て、2011年6月榊原記念病院において、11歳の先天性僧帽弁閉鎖不全(MR)症例に対し、本手術が行われました。その後榊原記念病院で成人3例、そして2012年2月京都府立医大で成人例1例、いずれも弁形成困難と考えられ、かつ弁形成希望の症例で、適応委員会の承認を得てNormo弁の手術が行われました。この5例の経過は極めて良好です。

この手術は、これまでの僧帽弁置換術の概念を大きく変えるもので、またこれが日本から発信されるということは、極めて大きな意義があると思われます。さらに、弁形成困難な多くのリウマチ性弁膜症患者を抱えるアジア諸国にとって、大いに期待される治療法であります。 そこでこのたび「ステントレス僧帽弁臨床研究会」を設立し、レジストリー制度を実施しながら、新しいステントレス僧帽弁治療の着実な発展、普及に寄与することを目的として、研究と同時に普及・研修の事業を行うこととなりました。 つきましては、多くの先生方から御意見、ご指導をいただきながらこの治療法を発展させてゆくことが出来れば幸いと考えております。

何卒宜しくお願い申し上げます。

平成24年5月23日
代表世話人 大阪大学心臓血管外科教授 澤 芳樹